My Favourite DJはResident Advisorの連載企画で、そのコンセプトは「自分の好きなDJについてDJに語ってもらう」というシンプルなもの。新しい才能、ビッグネーム、ローカルDJなど、どんなDJでも構わないというオープンなスタイルを設け、彼らから幅広い回答を得ようとする企画だ。今回はアメリカ出身のDJたちに焦点を当て、各自お気に入りのDJについて語ってもらう。さて、難しい話はここまでにして、どんな名前が挙がるか見て行こう。

Justin Martin: Solarのプレイに刺激を受けた

俺が選ぶのはSolarだ。Sunsetのメンバーで、ベイエリアのローカルDJさ。Sunsetの連中は20年近くに渡ってサンフランシスコでパーティーをやっている。簡単に言えば、奴らのパーティーがDirtybird BBQの元ネタだよ。奴らはサウンドシステムをアウトドアへ持ち出して、ルールを無視して色々な場所で開催してきた。俺がこの前行ったのはSunset Seasonal Openingで、5000人近く入っていたね。

彼は日曜日の夜のレジデントとしてプレイしていて、聴きに行くならそれだな。彼は常に一歩先を行っているんだ。まるで次に何が来るのかを探知するレーダーを持っているみたいだが、奴は本物の音楽オタクで、音楽についてずっと座って話しているのさ。見えないところで努力していると思うが、自慢することはないし、イライラさせられることがない。凄く自然体で、不思議に思う位だ。彼のプレイを聴きに行くと、俺が好きかどうかも判断できないような曲を書けている時がある。俺は「今日のセットが好きかどうか正直わからないな」って思いながら帰るんだが、半年後にはその時彼がかけていたトラックを探し回ることになる。今でも俺を驚かせてくれるDJだよ。

Monty Luke: ヒップホップのDJ Premier

Derrick May、Theo Parrish、Stretch Armstrong、誰にするかは難しかった。でも今回その接戦を制したのはDJ Premierだね。最近はプロデューサーが良いDJだというケースは稀で、ヒップホップに限って言えば、絶滅したと言ってもいいだろう。でも、Premierは作品の良さをDJでも披露してくれる。Gang Starrからスタートした彼は、Jay-ZやChristina Aguilera、Mobb Deep、そしてBig Lなんかもプロデュースしているが、DJの時のカッティングやスクラッチは別次元だよ。縦横無尽になんでもかけるというスタイルは特に気に入っているよ。彼が60年代のソウルやR&B、70年代のジャズ、そして今のヒップホップまで彼独特のカッティングやスクラッチを入れながら綺麗にミックスするのを聴いたことがあるが、最高だね。

Eric Cloutier: Daniel Bellの計算された抑制と隙のなさを尊敬

お気に入りのDJについて考えるのは個人的には凄く難しい。長年に渡って僕に刺激を与えてくれた様々な人たちは、僕が様々な感情や状況を持っていることと同じだからね。でも慎重に考えた結果、僕にとって長い間一番重要なDJはDaniel Bellだと言わせてもらいたい。

デトロイトのウェアハウスパーティーから、Club der Visionaereでの午後、Labyrinthでの日没のプレイまで、彼のプレイは数えきれない程聴いてきた。Danはいつも計算された抑制と隙のないスタイルでフロアをコントロールしてきた。彼がフロアを躍らせなかったのは1回も見たことがないし、彼も彼で、僕がプレイしたレコードを次から次へとチェックする姿を見飽きているだろうね。今でも彼がTresorからリリースしたMix CDは繰り返し聴いている。いつ聴いても良いと思えるし、踊れるね。何か特別な理由がない限りは彼のプレイは必ず聴いているし、最初から最後まで魅了されてしまう。DJでも制作でもレジェンドな存在だと思うし、DJについては他のDJよりも彼1人から多くを学んだよ。

Lee Curtiss: DJ Threeの音楽の知識からはいつも刺激を受ける

長年DJ ThreeことChris Miloを知っているけれど、プレイやミックスが下手だと思ったことは1回もないね。彼はいつもフロアをパーティーに変えてしまうんだ。オープニングだろうが、トリだろうが、俺が昔から大好きなレコードを今のレコードと完ぺきにミックスしてスムースに聴かせてくれる。DJの中の DJというべき存在だと思う。あとは一緒に遊んでいても面白い人物だ。そういうDJは少ないね。Chrisはかつてのレイブ時代から今のカッティングエッジなパーティーまで、エレクトロニックミュージックの世界を何年も生き延びてきたDJだ。

彼の音楽への愛は、俺が今まで出会ってきた誰よりも深いと思うし、音楽の知識で彼よりも上を行くのは不可能に近いね。Led Zeppelinのアートワークの裏話から、忘れ去られたシューゲイザー系のバンド、そして世界最初のダブレコードまでありとあらゆる音楽のジャンルやレコードについて、誰がいつどこでどうしたみたいな感じで長々と事細かに説明してくれるのさ。一次元的なDJやプロデューサーばかりのこの業界で、fabricのメインルームでも俺のウェディングパーティーでも適切なプレイをしてくれると信用できるDJは彼の他にはいない。俺に言わせれば、偉大なDJとは何をどのタイミングでプレイすべきかを知っている熱狂的な音楽愛好家兼鑑定家でなければならない。Chrisが俺をがっかりさせたことは1回もないよ。

DVS1: Mike Huckabyのプレイは自分を昔へ戻してくれる

DJ、そしてプロデューサーとして純粋に音楽を楽しめない時がある。何故なら分析したり、自分が今聴いているものが何なのかを考えすぎてしまったりするからだ。でもMikeのDJを聴くと、昔の自分に戻ることができる。ただダンスフロアで黙々と踊っていた自分にね。純粋な気持ちで物事を楽しめる状態にしてくれるのさ。彼のインタビュー、そして人間としての常に前向きな姿勢からも刺激を受けているな。彼の音楽センスは神の領域だ！　彼はデトロイト黎明期からシーンにいるが、最近は正当な評価を世界から受け始めている。彼には「自分のやり方を貫き続けてくれ！」ってみんなを代表して言っておきたい。

2人目を挙げるとするならば、ミネアポリス出身の俺の仲間、Daniel Paul aka Ghettoだ。音楽におけるソウルメイトってところさ！　ハウス、テクノ、ディスコ、ソウル…なんでもかける。正しいタイミングで正しいトラックをかけることができるDJだ。ミネアポリスの外では知られていないが、ミネアポリスのDJなら誰でもGhettoは本物だって言うだろう。

Function: Jeff Millsが唯一の存在

俺が好きなDJはいつだってJeff Millsだけさ。いつも言わせてもらうんだが、彼に匹敵する存在は未だに出会えていない。彼は1991年、ニューヨークのLimelightで行われていたLord MichaelのFuture Shockというパーティーで、DJ Repeteと一緒にレジデントを務めていた。丁度Underground Resistanceから離れてデトロイトから移ってきて、ソロアーティストとして自分を確立しようとしていた時期で、Waveforms Transmissions Vol.1のレコーディングやAxisをスタートさせた頃だった。彼はほぼ毎週末そこでプレイして、週に数回プレイすることもあったから、俺は幾度となく聴くことができた。彼があそこでやっていたことは強烈な魔法のようなものだったね。

レコードを操っているハウス／テクノDJに出会ったのは彼が最初だった。フロアで「このレコードを持っているけど、全然違って聴こえるぞ！」って思ったのを憶えている。ブースへ向かって彼の後ろへ立って眺めていたが、レコードがブースの中を飛び回っていたよ。彼はジャケットにレコードを戻すなんてことはしなくて、ただひたすら足元にレコードを投げ出していた。思い切りやってチャンスを掴もうとしていたんだ。上手くいかなかったこともあったが、上手く行ったときはそんな感じだったし、その時の音楽は今まで経験したなかで最高に凄まじいものだった。20秒から30秒おきに新しいレコードがかかっていて、3台のターンテーブルを低域用、中域用、高域用に分けて使っていた。ヘッドフォンを使わないでプレイしている時もあったし、”Up Tempo”や”Dominator”なんかを２枚がけしている時もあった。あの頃俺が経験した中では最もエネルギッシュで革命的なDJプレイだったよ。今でも未来を感じることができるプレイだし、20年前だったとは思えないね。