「本当に閉まるの？何かできることは無いの？」これはドキュメンタリー映画『Bar 25: Tage außerhalb der Zeit』にて、Bar25が閉店することを知らずに訪れた客が、今日が最終日だと知らされた時に言った言葉だ。2012年の6月に、ベルリンの人気クラブBerghainが、GEMAの楽曲使用料の値上げに伴い2013年に店を畳むという噂が出回った時は、誰もが同じ事を思っただろう。この時初めてGEMAの存在を知ったドイツ国外の人も多かったはずだ。この時期に、世界中のメディアがドイツのクラブシーンの危機について報道し始めた。しかし、そのようなニュースはどれも表面的であり、多くの謎を残した。そもそもGEMAとドイツのナイトクラブのバトルはどのようにして勃発したのか？ライセンス料に関する問題がなぜドイツのナイトライフを脅かすことになったのか？？そもそもGEMAとはいったい何なのか？

ドイツ国内に住んでいて、GEMA問題のことをもともと知っていたとしても、2012年の夏に起こった反GEMA運動の過激さに多少なりとも驚いた人は多かったかもしれない。1年前に、ライブコンサートのライセンス料に同じような料金改定があった時は、誰も抗議をしなかった。そして2年前に、ベルリンのクラブの税金に値上がりがあった時は、多少メディアで取り上げられた程度であった。ではなぜ今回のGEMAの「Tarifreform（料金改定）」は、ここまで人を感情的にさせてしまうのか？2012年から今年の始め頃まで、この件に関して様々な偏った意見や間違った情報が飛び交い、混乱を生み出していた。そろそろ事実を整理し、現状を正しく理解するべき時だろう。

GEMAとは?

GEMA、正式名称Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte(英:Society for Musical Performing and Mechanical Reproduction Rights)とは、音楽著作権の管理団体だ。つまり著作権のある楽曲の使用料金を徴収し、著作権保持者に分配する事が目的だ。国内を始め世界中にいる会員の知的財産の権利を管理しており、ナイトクラブだろうと、ダンススクールだろうと、はたまたスーパーだろうと、ドイツ国内で何らかの形で音楽を使用して運営しているお店であれば、GEMAにライセンス料を支払わないといけない。現在、国内では約6万4000人の作曲家、作詞家、音楽出版社が会員になっており、全世界で200万人もの著作権保持者の著作権を管理している。

営利団体、私益法人であるにも関わらず、料金徴収においてGEMAが法的な手段をとる事を国は認めている。そして国内のマーケットに＾他にこういった管理団体が存在しない事から、事実上、市場独占状態だ。結果、ドイツの判例法によりGEMA-Vermutung (GEMA仮定)が設立された。これは、音楽作品が全てGEMAの管理下にあるものだと仮定され、ユーザーが楽曲をGEMA未登録である、あるいはパブリックドメイン（知的財産権が発生していない状態又は消滅した状態）である事を証明できない場合は、自動的に徴収の対象となる事を意味する。

PRS for Music (UK)やASCAP & BMI (USA)などといった著作権管理団体と違い、GEMAは「copyright law」ではなく「author’s rights」という著作権法を元にしている。これにより著作者がGEMAの会員になった際、著作権を譲渡するのではなく、使用権のみの契約を交わす。音楽作品の再生、複製、放送における著作権の管理と使用料の徴収を行う権利だ。自身の音楽の著作権を細かく管理する時間やお金の余裕が無いミュージシャンにとっては便利な仕組だが、その代わりに管理の仕方に関する決断は著作者本人の物ではなくなってしまう。チャリティイベントに無料で自身の楽曲を提供したくても、利用料を割引して楽曲の使用を第三者に許可したくとも、それはもはや本人が下せる決断ではないのだ。

しかしGEMA会員が抱いている不満はそれだけではない。団体の方針は全てトップ会員の一部の人たち（メジャーや商業レベルの人々）によって決断されている。メンバーには「full member」、「extraordinary member」、「associated member」という順に位があり、full member（3,323人）のほんの一部の人間のみが権力を持ち、団体の意思決定に直接投票できる。Full memberになるには、GEMAからのロイヤリティ収入が3万ユーロ（約395万円）を超えることが条件であり、大抵のアンダーグラウンドなアーティストにとっては手の届かないポジションなのだ。このメインストリームのエリート組がライセンス料や利益の分配などを決定する。そして、驚くことではないが、この決定権を持った人たちは自分達にとって有利になり、下位の会員にとっては不利になる決断をする傾向があるのだ。

「GEMAの最大の問題点は、定額で徴収した料金の分配の仕方だ」と、Raster-Noton主宰のCarsten Nicolai、別名Alva Notoが言う。「このデジタルの時代、実際にかかってる曲にお金が支払われるべきなんだ」。しかし何の曲がいつどこでかかっているのかを全て正確に把握することは不可能に近く、その点がロイヤリティの分配のネックとなっている。現在GEMAは楽曲の売り上げとラジオプレイを元にした推定アルゴリズムを用いて、プログラムのない音楽イベントのロイヤリティを算出している。
イベントプロモーターやインディーズのアーティスト/レーベルがこの仕組みに腹を立てるのも理解できるだろう。GEMA-Vermutungのせいでイベントでかかる曲は全てGEMAの徴収の対象となるだけでなく、取り立てた金を誰に還元するのかも彼等の漠然としたアルゴリズムで勝手に割り出してしまう。多くのダンスクラブではアンダーグラウンドやインディーズのアーティストの楽曲がたくさんかかっているにもかかわらず、イベントで徴収された料金の何割かは、1曲もかからなかったメジャーアーティストやCMのシングル作曲家の口座に振り込まれる可能性がある上に、楽曲がかかったにもかかわらず1ユーロももらえないアーティストもいる。

更に、GEMAは昔ながらの不思議な習慣に縛られている。GEMAは音楽作品をエンターテイメント音楽[Unterhaltungsmusik]、シリアス音楽[Ernste Musik]、そして実用的な音楽 [Funktionsmusik]の3種類にカテゴライズするのだ。そしてこのカテゴリーに応じて料金の値段設定、会員の条件、そしてロイヤリティの計算をする上でのポイントの高さ、が決められる。そしてもちろん、エンターテイメントがこの中で最も不利だ。会員になるのが最も難しく、料金設定は一番高く、それでいてロイヤリティの還元率が1番低い。「数年前、ラジオ局で働いていたんだ」と、元Panorama Bar レジデントのプロデューサー、Prosumerが語る。「その時GEMAの仕組みを知って、驚愕したよ。音楽をエンターテイメントだとかシリアスだなんてカテゴライズするのは馬鹿げている。どこのどいつにそんな権利があるんだ？」

料金改定問題

"Gemafia is tolerated by the state"

こうして、すでにGEMAに対する不満、フラストレーションが募っていた状態で、2012年に新しい徴収額が発表された。この発表は人々の反感を買い、GEMAに対する批判の声が増えていった。その後2012年に起こった一連の出来事をすべて時系列にまとめようとしたら膨大な長さになってしまうので、簡潔に要約しよう。まず、4月14日にGEMAは、音楽イベントでの楽曲使用料をより「単純化」した事、そしてこの新料金は2013年の初頭から実施される事を発表した。これはすでに決定した事項であり、議論の余地はない、といった印象を与えた発表であった。

「これが来年の料金だから。え、不満だって？それは残念だね。じゃあ宜しく」。音楽イベント業界の人々は、そうあしらわれたと捉えた。簡単に呑み込める話ではなかった。

もちろん、事はそう単純ではない。2007年の12月、政府はGEMAを調査し、正当性のある管理団体だと公認したが、料金設定は複雑すぎでバランスがとれていないと指摘した。それを受け、GEMAは早急にライセンス料の仕組みを改善すると発表し、透明性を高め、よりシンプルで平等なシステムにすることを約束した。そして、音楽ユーザーを代表する組織との交渉が法で定められているため、GEMAはBVMV（Bundesvereinigung der Musikveranstalter、音楽イベントオーガナイザー協会)との交渉を始めた。

ところが2011年の後半には交渉が決裂し、第三者の仲裁のもと話し合いも試みたが、結局合意の成立に至らなかった。すると2012年の4月、GEMAは交渉も仲裁も無しで一方的にBundesanzeiger(Federal Gazette) にて新しい料金を発表し、新規定は法的拘束力を持った。

これが引き金となり、2012年の後半にかけて数多くの抗議デモや署名運動が行われた。イベントプロモーター、クラブのオーナー、DJなどが一斉にこの件について言及するようになり、SNSで注目を集めた。4月の後半、giga-eventのプロモーターMatthias Rauhは、GEMAの料金改定に反対するオンライン署名運動をスタートし、署名を呼びかけた。リンクはあっという間にソーシャルメディアで拡散されたが、この段階ではまだドイツ国外のメディアはあまり注目しておらず、国内の関係者のみがパニックしているようであった。

GEMAに反対するデモが実際に行なわれるようになったのは、6月に入ってからだ。6月25日、新しく設立されたナイトライフ協会がデモをオーガナイズし、GEMAの会員がサマーパーティを行っていたベルリンのKulturbrauereiの前で抗議を行った。 6月30日には、GEMA問題に対するクラバー達の関心を高めるために、ドイツ中のクラブやディスコが一斉に23:55に5分間音楽をとめた。

"自由は戦って勝ち取るものだという事を忘れがちだ。それを今回多くの人が痛感した" - Steffi

7月の初頭に、Berghainが2013年の1月に閉まるという噂が出回ると、いよいよ同問題は世界中で注目されるようになった。他にもWatergate、Schwuz、Weekendといったクラブも閉店の危機を迎えているという噂があったが、これらはあくまで噂であり、根拠は無かった。しかし、世界中のテクノファン、そしてドイツの一般人の関心を集めるには十分すぎるトピックであった。Berghainの閉店ニュースはドイツ中の新聞の見出し飾り、Guardianのような英語の新聞紙でも取り上げられたほどであった。FacebookやTwitterなどソーシャルメディアで爆発的に話題沸騰した。

その後は更に署名活動やデモ、そして怒り/パニックを露にしたFacebookへの書き込みなどが増えた。そして9月6日、ベルリンのナイトクラブやプロモーター、音楽ファンなどから構成される組織FAIRplayが、「day of action（行動の日）」を開催し、大規模なデモ行進をオーガナイズした。シューネベルクにあるGEMA本部の前で行われ、テクノやハウス界隈以外の音楽シーンからの参加者も多数あった。フランクフルト、ミュンヘン、ハンブルグなど多数のドイツの都市で同時にデモが行われ、メディアに大きく取り上げられた。

料金改定の内容

このような猛反発を起こしてしまう料金改定とは、いったいどの様な内容であったのか？今回の改定により楽曲使用のライセンシングはより簡単に、そしてより公平になるとGEMAは主張した。まず、今まで11項目あった料金レートが、新しく2項目のみとなる。更に、今まで全てのイベントに対して定額を請求していたが、改定後はイベントごとに料金を算出することとなる。計算の仕方としては、会場のサイズと入場料のみから、料金を割り出す。これでイベントの規模に応じた、バランスのとれた料金設定になるはずであり、60%のイベントオーガナイザーにとっては料金の値下げになるのではないかと、GEMAは予測した。

しかし現実はそうはいかない。BerghainのレジデントDJであり、Ostgut Tonのプロデューサー、Marcel Dettmanはプレスリリースでこう語っている。「これは単純化され過ぎて、明らかにバランスのとれていない、どう見ても理に適っていない改定だ。ドイツのイベントシーン全体にとって脅威となる」。GEMAの新しい料金設定（Tarif M-V）は、音楽イベントの収益の約10%を徴収することが目的であった。オーガナイザー達が正直に収益を報告するとは思っていないGEMAは、会場の大きさとエントランス料を元に収益を見積もり、その10％を請求するのだ。

この見積もりには、以下の3つが前提となっている。1)会場のキャパシティは1平方メートルに1人とし、ダンスフロアだけでなくクラブの面積全てを含み、家具など固形物は無い物とする。2)毎回、イベントはキャパシティを満たしているものとする。3)来場者全員がエントランス料をフルで支払っているものとする。

もしあなたが新人プロモーターで、このような見積もりの仕方をしていたら、初イベントは大コケで終わるだろう。GEMAの計算方法で考えると、エントランス料10ユーロ（約1,320円）のイベントが500㎡のクラブで行われたとしたら、イベント毎に5,000ユーロ（約66万円）の収益がある事となり、毎回500ユーロ（約6.6万円）がGEMAに持って行かれる。もしそのクラブが週に3回営業をすれば、年間で実に78,000ユーロ（約1,029.7万円）もの額をGEMAに支払わなくてはいけない。今までの料金設定では、1年分をまとめて支払うと、良心的な割引が適用されていた(Tarif M-U IIIc, Diskotheken)。以前の料金であれば、同じ500㎡のクラブは7,849ユーロ（約103.6万円）の徴収額であったため、今回の改定は894%の増額となる。たとえ100㎡のクラブがエントランス料5ユーロ（約660円）のパーティーを開いたとしても、年間でみると料金は200%の増額となる。

この改定に関する批判を受け、その後GEMAはAngemessenheitsregel (適切規定)を発表した。これは、もし徴収額が収益の10％よりも大幅に超えてしまった場合、あるいはクラブのキャパシティが1㎡に1人よりも大幅に少ない場合に申請すると、徴収額の一部を還付してもらえるという制度だ。これに関してはWintergarten Varieté運営のGeorg Streckerがこう言い放った。「わざわざ書類を提出しないと“適切な額”にしてもらえないライセンス料は、そもそも始めから適切じゃないんじゃないか」。そして、これはあくまで一旦徴収額を支払った後に申請する事であるため、小規模なクラブやプロモーターにとってどれほど助けになるのか疑問な所だ。

しかし、最も人を驚かせたのは、パーティーの長さに応じて課される加算金であった。改定後の新規定には、5時間以上続くイベントは自動的に料金が50%増額し、更に3時間おきに50％分が加算されると言うルールが加えられていた。ドイツのナイトクラブは、もちろん、5時間以上営業しているのが当たり前であり、ベルリンのクラブにいたっては10時間を超えるのもザラだ。24時間以上続くクラブイベント（Berghain、Kater Holzig、Sisyphosや、夏の野外イベントなど）に至っては、信じられない額になりかねない。これに関した痛烈な批判に応じ、GEMAはその後8時間を超すイベントには、2時間おきに25％が課金されるシステムを発表したが、それでもベルリン・スタイルのイベントにとっては痛手である事には変わりは無かった。

ところがまだ終わりでは無い。11月の後半、GEMAは後に「ラップトップ加算金」と知られるようになる追加料金（VR-Ö）を発表した。これはCD-R、テープ、USBやハードディスクなどデータの保存ができるメディアに対する料金であり、以前から存在していたが、それまではDJがmp3や焼いたCDをプレイで使っていたら、ライセンス料の30％が上乗せされるというものであった。だが今回の改定から徴収はパーセンテージではなくなり、DJのパソコンに入っている全てのmp3に対して0.13ユーロ(約17.2円)がかかる。そして5分を超える楽曲であれば、1分に対して20％割増になる。実際のプレイで使用されていなくとも、DJがクラブに持ち込むデバイスの中の全ての音楽ファイルが対象となる。

この発表を受け、クラブオーナーやイベントプロモーターはGEMAの新料金の計算をし、見積もりをソーシャルメディア等で公開し、不満を露にした。これらの予測額は主に「最悪の場合」を想定した数字であり、細かい条項など無視された部分もあった。そして夏にGEMAが発表した修正を考慮していない場合も多かった。GEMAはこれらの見積もりの多くは誇張であり、誤解を生むと非難した。だが同時に、大規模なクラブにとっては、この改定後の料金は以前と比べ大幅な増額になることを認めた。どちらにせよ、「Berghainのライセンス料が1,400％割増」といったフレーズは大いに注目を得た。

PR戦争

GEMAの料金改定が最初に発表された時から、広報活動と世論が事の行方を大きく左右していた。GEMAは当初、改定はあくまで徴収を公平にするためのものだと主張した。2007年に不公平な料金設定だと指摘され、それに対応しGEMAは簡略化した新システムを発表したのだ。そしてその発表に激しい非難が殺到すると、GEMAの広報担当はチケットセールスの10％の徴収は適切であると主張し、ヨーロッパの他国の管理団体を引き合いに出した。しかしGEMAは手口が汚い、独占権を乱用している、といった批判を次々に受け、そういった指摘を全否定しつつ、逆にドイツのイベントオーガナイザー達こそが傲慢で自分勝手だと攻撃を試みた。

ドイツのイベントオーガナイザー達はこの時、非常にアグレッシブでスキルフルなPR戦略をとった。ベルリンを筆頭に、ドイツのクラブシーンはまとまりに欠け、無秩序であることで有名だ。今でもそれは変わらないが、2012年4月のGEMAの発表があってから、ドイツのクラブシーンの人々は一丸となった。すぐにFAIRplay、Kultur-Retten.de、GEMAstoppen.deといった集団が結成され、協力し合うようになり、元々存在していたClubcommissionのような組織も今まで以上に強化された。そして2012年を通して、これらのグループはどんどんと影響力を増し、戦略もより巧みになっていった。プロモーター、DJ、そして音楽ファンで構成されたネットワークの広報活動は首尾一貫し、そのうち同じスローガン、同じ論点、時に同じ写真や映像を用いてメッセージが拡散されるようになっていった。そしてGEMA批判者同士でお互いの意見をサポートし合い、ソーシャルメディアのフォロワー達にリツイートやシェアを呼びかけた。

夏に行われた一連のデモ運動を見れば、彼等の統制がどのようにとれていったかが解る。6月25日、GEMAのサマーパーティーの時に行われた最初のデモは成功とは言いがたい結果を残した。イベントはたった数日前に告知され、数人のプロモーターがニュースレターで宣伝したのみであった。Kulturbrauereiの前に設置されたステージでは著名人がスピーチを行っていたが、ほんの1ブロック先にもう1つステージがあり、そこではテックハウスが同時にガンガン鳴り響き、参加者の関心をスピーチから遠ざけてしまっていた。

8月26日にBoxhagener Platzで行われたデモは、著名なDJやKater Holzigのような有名なクラブの名前を冠したイベントポスターでしっかりと告知された。音楽とスピーチは同じステージで行われ、90分のDJプレイの合間に10分のスピーチが挟まれていた。しかしこれは抗議活動のわりにはパーティーのしすぎだ、と警察は思ったようだ。もっと政治的なトークが行われていないとイベントを中止すると警察はオーガナイザーに言った。そこで、30分おきにDJやプロモーターや、バーテンダーやセキュリティーなど色々な人がどんどんとステージにあがり、その場のアドリブで熱く語った。Boxhagener Platzは人でパンパンであった。

9月6日には、国内の至る所で一斉にイベントが行われる「day of action」を、FAIRplayが開催した。これは事前にしっかりと準備され、他の反GEMA団体の協力もあり、様々なメディアで宣伝が行われた。Facebookでイベントページができると、クラブやプロモーター達が一斉にリンクを拡散した。オーガナイザーはテクノ以外の音楽シーンへも協力を呼びかけた。オーガナイザーによるとベルリンでは1万人、ドイツ全体で2万5,000人の参加者が集まったとのこと。このデモ行進は様々なメディアで大々的に取り上げられた。

真偽の程は別として、Berghainの閉店の噂がGEMAへの反対運動のターニングポイントになったのは間違いない。この噂をきっかけにこの問題に関心を持った人の中には、著作権管理や知的財産権に関する知識（あるいは関心）が低い人も多かったが、Berghainというクラブが無くなってしまう事の重大さは多くの人が理解した。著名なクラブが次々と存続の危機を訴えるにつれ、この問題を言及する人もどんどんと増えて行ったが、規模の小さいクラブへの関心が薄れてしまうという側面もあった。「Berghainが閉まると皆騒いでいるが」と、Panorama BarのレジデントでありOstgutのアーティストSteffiがLittle White Earbudsとのインタビューで語っていた。「彼らは、GEMAが音楽界全体を殺していることを理解していないんだ。素晴らしいライブが行われる小さなバーなんかの事を忘れている」

GEMAのPR戦略に関しては、始めから難点だらけであった。2012年の4月に行われた料金改定の一方的な発表は、そもそもメディアの注目を集めるための作戦だった、とGEMA内外の情報源が漏らしている。つまりこういう事だ。BVMVの交渉の仕方が妨害的であったと感じたGEMAは、一方的に料金改定の発表をすることでこの事を明るみに出し、BVMVがGEMAとまた交渉をするように仕向けることが目的だった。もしそれが本当だったとしたら、その戦略は自爆行為となった。メディアはBVMVとの交渉の事には触れず、GEMAが法外な料金設定を弱者に押し付けている部分だけを切り取った。BVMVはスポットライトから消え、代わりにGEMAの前には数多のドイツのアンダーグラウンド団体が立ち塞がった。まるで旧約聖書のダビデとゴリアテの戦いのような、弱小な者が強大な悪に立ち向かう図式が出来上がり、それは大衆にGEMAに対する嫌悪感を植え付けた。

GEMAの最大の敗因は、論争点がズレていったのを止められなかった所にある。当初、今回の料金改定が公平でリーズナブルなものであるとし、反対する者は頑固で傲慢だとGEMAは主張していた。だがドイツのクラブシーンはすぐに対抗し、GEMAは搾取的なパラサイトであり、利益のために音楽シーンを経済的な崩壊へと追いやる事に躊躇しない悪の組織であると描写した。いつのまにかGEMAは自身の料金設定を弁解するだけでなく、管理団体としての正当性も訴えなくてはいけなくなっていた。

メディア戦争に勝ったのがどちらであろうと、1つ確かな事は、クラブの閉店問題に注目が行き過ぎたせいで、GEMAの抱える本当に重要な問題があまり明るみに出なくなった点だ。例えば会員制度の不平等さ、ロイヤリティの分配方法、そしてGEMAと交わす契約の不自由さなど、多くはGEMA内の問題である。ポーランドの音楽雑誌Glissandoのインタビューで、Ostgut TonのNick Höppnerが同問題について触れており、Berghainのような大きなクラブは新しいライセンス料でもやっていけるだろうと予測している。「どうにかなると思うね。今それより重要なのはロイヤリティの分配の仕方を見直す事だ。それはGEMA内でしか解決できない問題だ」

難しい課題

2012年のGEMAの料金改定問題から学ぶ事は多い。例えば、1つの問題が大きくなり、パブリックディベート化すると、大衆は非常に感情的になる危険性がある。音楽ファンが過剰に反応しているだけだと業界人は笑うかもしれないが、この一連でアンダーグラウンド・ミュージックシーンをどれほど人が大切にしているのかが明確になった。ドイツ国民にとってどれほどナイトクラブやクラブミュージックが大事な存在なのかを理解していないGEMA役員や政治家、警察、そして土地の所有者などは、これを機に考えを改めるべきだ。

そしてドイツのクラブシーンもこの一件から学ぶべきことがある。現在クラブシーンを構成しているのは幾つもの脆弱な小さいコミュニティであり、これらは影に隠れ、未来の保証が無い中、ギリギリに生存している。世界中の音楽業界や不動産業界が直面している経済状況を生き抜きたいのであれば、コミュニティ間で協力をし合い、賢い政治的戦略と巧みな広報活動に力を注ぐべきだ。今回、ドイツのクラバー達が外で集まり、ちゃんとデモを行うようになるまで何か月もメディアを通して騒ぎ立て、説得を繰り返さなくてはならなかった。今後もっとこのような動きを起こさなくてはいけなくなるだろう。Steffiはこう言う。「ベルリンには自由な事が多い。しかしだからこそ、自由は戦って勝ち取るものだという事を忘れがちだ。それを今回多くの人が痛感した」

2012年が終わる頃には、いくつか進展があった。Rauhの署名運動は30万5,122人の署名を集めることに成功し、12月の半ばにドイツの連邦議会に正式に提出した。GEMAとBVMVは、6月に開始した調停での話し合いを再開し、12月20日には、料金改定を2014年の1月1日まで延期する事が発表された。それまでは、現在のGEMAのライセンス料に5％、クラブとディスコに関しては更に10％が加算された割合の増額が課された。こうして、この複雑で利害関係が絡む問題の解決策を見つかるまで、もう1年の猶予ができたという訳だ。

しかしそれでもまだ謎はあった。GEMAは以前の政府の指摘を受けて、より公平な料金設定を目指したのだと主張するが、ではなぜ新しい料金は最も収益が見込める条件が前提となっており（キャパ満員、チケット満額など）、後でプロモーター自身が申請しないといけないシステムにようとしたのか？この新しい料金でライセンス料が大幅に跳ね上がることは簡単に予測でき、GEMAがただ目先の利益のためだけに行ったのだという批判は否定できない。現在市場を独占しているGEMAが、果してする必要がある事だったのだろうか？どうであれ、GEMAがドイツのインディペンデント・ミュージック・シーンがどのような仕組で動いているのかを理解していない事は明白だ。この団体内にも、そしてメインストリームではない音楽シーンとの関係性においても、「カルチャーギャップ」があることは否めない。Berghainでトイレを待っていたあるテクノ・プロモーターがこう言っていた。「GEMAみたいな団体は必要だけど、“GEMA”みたいな団体は必要じゃない」。実際、C3S(Cultural Commons Collecting Society)などGEMA以外の団体との契約を考えるミュージシャンや音楽ユーザーが今増えている。

そして2013年に入ってからのGEMAの動きを見ても、GEMAが誠意をもってこの問題に取り組んでいるとはどうしても考えにくい。３月にGEMAはデジタル音楽を使用するDJ用の申告書の導入を発表した。デジタルで複製した音楽を使用するDJがわざわざ自発的に報告をし、その分の料金を払うことが前提になっている。だがこの申告書も物議を醸した。500曲分のライセンスを50ユーロ（約6,613円）で購入することができる定額システムは、GEMA側がデジタルコンテンツを正しくライセンシングする努力を放棄し、楽をして金を儲けるための手段ではないかと指摘する者もいた。書類には使用する楽曲をリストアップする欄がないため、その50ユーロは他の料金と一緒にされる。

そしてこの申告書を集めることによって、DJ達をGEMAと契約させ、DJを管理し、数年後にさらに値上がりした料金を押し付けるつもりなんじゃないか、といった声もあがった。本当にそのような罠なのだろうか？今は様子を見るしかないが、GEMAの下手なPR戦略のせいで、人は最悪のシナリオを覚悟している。

2013年の6月が解決の期日だったが、予定より早く4月18日に、GEMAとBVMVの話し合いは解決に至った。決定事項はまだ公になっていないが、すでに解っていることは多少ある。最終的な結論にはGEMAとBVMVの両方の主張が取り入れられているが、どちらも完全なる勝利は収めていない。GEMAの権力は依然として残り、単独的に料金を設定する事もできる。しかしGEMAの簡略化された料金は不適切であるとし、以前の複雑な料金設定のほうが、実際に行われている音楽イベントにまだ適しているという結論に至った。しかし、GEMAのような独占的な立場にある管理団体を規制するために、国はより法を厳しく、明確にするべきであるという点も今回で明らかになった。

今後はどうなるのか？2012年の料金改定は中止され、以前までの料金が今後も継続されるが、2013年から始まった5~15％の増額は今後も実施される。仲裁人団は仲裁判断を元に妥協案を提出し、これを元に2014年にはGEMAとBVMVの交渉が再開する。次に進展があるのはいつになるか解らないが、今年中に何らかの正式な発表があるだろう。