1980年代のアンダーグラウンド・ミュージックの聖地であったアメリカのクラブと言えば、Paradise Garage、Warehouse、Muzic Boxなどが挙げられるが、それ以外にも、シーンに何らかの貢献を果たしたものの忘れられてしまったクラブが存在する。Warehouseがクローズした後にシカゴにできたティーンクラブMedusa'sは、メジャーで活躍するTommie SunshineやKaskadeなどからHieroglyphic Beingなどのアンダーグラウンド・プロデューサーまで、数多くのアーティストがインスピレーションを受けたクラブとして挙げている。レザーに身を包んだインダストリアル・ミュージック・ファンと、プレッピーなファッションのハウス・ミュージック好きが共存できた希有な存在のこのクラブは、その両方のシーンの発展に大きく貢献した。

今から30年前、1983年の10月に、David "Medusa" SheltonはMedusa’sをオープンした。Medusa（メデューサ）というのは、カーリーな金髪のドレッドロックがトレードマークであった、このエネルギッシュなイベントプロモーターのあだ名だ。とある霧の深い夏の夜、シカゴの西の郊外に位置するイリノイ州エルジンに構えている彼の現在のクラブにて、私はSheltonと初めてお会いした。Sheltonの後について私は、騒がしいティーンエイジャー達の横を通り過ぎ、ベルベットロープを跨いで、勾配が急な階段を上り、空港に見立てたロビーを通り抜け、3人の網タイツの女性がバーでゴーゴーダンスをしている、暗くて人のまばらなラウンジに出た。近道をするために私たちは非常口を出て、明るく照らされた非常階段を使い、ぎゅうぎゅう詰めのダンスフロアへと出ると、人の間を縫ってフロアを横切った。そして最終的に、リベラーチェの巨大な肖像画が飾られた、キレイとは言いがたい事務所に到達した。Sheltonはセーターにスキニージーンズという格好で、肌は日焼けしており、毛先を染めた髪が芸術的にアレンジされていた。

Sheltonはここ、エルジンで育ったが、思春期になると町を飛び出して行ったと言う。「クラブに行き始めた頃、俺は一時期ハワイに住んでいたんだ」と、彼は語る。「あれはグラムロックが流行っていた時代だ」。ワイキキにて、彼は友人たちとバーやディスコで頻繁に踊り、彼等の影響でゲイ人口が増えたという。「ゲイだとかバイとか、色々な人が来るようになった。あの島の雰囲気を俺たちが変えたと思うんだ」

Medusa'sのルーツは、"ハウス・ミュージック"というジャンル名の由来でもあるクラブ、Warehouseにある。ユナイテッド航空で働くために1977年にシカゴに戻ってきたSheltonは、この地の音楽シーンの現状に幻滅したが、Robert Williamsが経営する深夜営業のWarehouseにてFrankie Knucklesのプレイを聴いた時、彼の考えは変わったという。 WarehouseというクラブのコンセプトにSheltonはとても惹かれたのだ。「（Williams）から多くを学んだよ」と、彼は言う。「営利目的じゃない活動とか、色々と教わった」

そしてSheltonは初めてのイベントを、1979年の3月17日にWarehouseで行った。Men In Progressと呼ばれたこのイベントのメインDJはFrankie Knucklesであった。その後、彼はBistroやCoconutsといったシカゴの著名クラブでいくつか単発のイベントを打った。1980年の10月、Warehouseに触発されたSheltonは、自身の深夜営業のクラブ161 Westを、シカゴのループ地区の側の161 West Harrison Street（161西ハリソン通り）にてオープンした。金曜夜のコスチューム・パーティーでは、毎回KnucklesがDJを務めた。当時の宣伝広告には、“一晩中ダンサーが身体を揺らす場所”といったフレーズが当クラブを描写していた。Williamsはこのクラブをライバルだと認識し、12月号のGay Life誌宛に辛辣な手紙を送っており、文中で「161 Westはこういったクラブの走りではない。以前から、最高級エンターテインメントを提供するクラブは存在していた」と、宣言している。

「彼は、俺とFrankieが手を組んでるのが嫌だったみたいだ。今なら彼の気持ちもわかるよ」と、Sheltonは語る。彼によると、Williamsは一時期Warehouseを161 Westに移すことを考えたらしいが、そのうちFrankieはWarehouseを離れ、自身のクラブPower Plantを立ち上げてしまった。手紙の最後でWilliamsは、161 Westのことを「姉妹クラブ」だとも言っていた。

Sheltonが161 West Harrison Streetにクラブをオープンした理由は、ウォータータワー（給水塔）があった事と、屋上からの景色が良かった事であるが、クラブが人でいっぱいになると窓が曇ってしまうことがすぐに判明した。そして、黒人ばかりが来るワイルドなパーティーをやっていることが建物のオーナーにバレた瞬間から、もうクラブの先はそう長くなかったとSheltonは言う。結果、Sheltonは1年後に建物の退去を余儀なくされた。

Medusa’sをオープンした、3257 North Sheffieldの物件を最初に見つけた時のことを、Sheltonは鮮明に覚えている。たまたま通りかかった建物の窓に“for rent（空室あり）” と書いてあるのを見かけたそうだ。「その日のうちに契約したんだ。ライセンスだとか近隣の状況なんか何もわからないうちに決めたんだよ！」。この建物は昔、Independent Order Of Vikings（註：スウェーデン人の友愛組合）が使用していたが、その後70年代初期にはジャズミュージシャン、William Russoの実験的な会社Free Theaterが借りていた。

Gay Life誌によると、1983年10月22日の土曜日に行われた当クラブの初パーティーは招待制であった。当初、Shelton はFrank Lipomi、Mark Hultmark、Michael Graber、Mark Vallese、Kasey CrabtreeなどローカルDJを交替で雇ったが、そのうち2人のDJがメインとなった。1人はNeo'sで“モダン”あるいは“ニュー”な音楽をかけることで知られていたBud Sweet、そしてもう1人はGay Chicago で年間ベストDJに選ばれたこともある、百貨店Searsの元店長の29歳、Mark Stephensであった。

Sheltonの親しい友人、Greg "Blue" PittsleyはMedusa'sでスタッフとして働き、そのうちマネージャーに昇格した。彼が言うには、SweetとStephensは元々全く違うスタイルのDJであったが、「お互いを刺激し合って、音楽のテイストも変わっていった」らしい。そしてそのうちエレクトロやインダストリアル、ニューウェイブなど、それまでだったら考えられなかったような音楽をスピンするようになっていった。「いつのまにか、金曜日と土曜日は毎週フロアがパンパンになってたよ」と、Pittsleyは言った。

Medusa’sが人気を博したのと同じ時期に、Jim NashとDannie Flesherが設立したレーベル、Wax Trax! Recordsも人気を集め出していた。2人はまず1978年にシカゴの北側にレコード店を開いた。その後、レーベルとして1981年にStrike Underの"Immediate Action," Divineの"Born To Be Cheap"や、Ministryのファーストシングル、"I'm Falling"などをリリースした。Medusa'sがオープンしたころ、Wax Trax! Recordsはベルギーのインダストリアル・グループ、Front 242をアメリカ市場に流通させていた頃だった。

Gay Chicago誌によると、1984年6月28日のMark Sephensのプレイリストには、PrinceやLoleatta Hollowayなどアメリカ中西部出身のポップスターの楽曲から、新進ハウス・アーティスト、Jesse Saundersの"Funk U Up"などが入っていた。そして1985年のミックステープを聴く限りでは、どうやらよりダークなサウンドへと傾倒しており、Ministryの"All Day"、Portion Controlの"The Great Divide"、Anne Clarkの"Our Darkness"、Frankie Goes To Hollywoodの"Two Tribes"、そしてVicious Pinkの"Cccan't You See"などが収録されていた。「Mark Stephensは何でもプレイできて、すべて滑らかにミックスしてしまう・・・そしてダンスフロアの人々を湧かすことに長けていたの」と、シカゴのDJ、Teri Bristolが思い出す。「彼はJames Deanみたいにクールだった。変に気取ってない、ナチュラルなクールガイで、皆が彼に惹かれていた」

Teri BristolもそのうちMedusa’sで回すようになった。「(Stephens)に弟子入りして、色々と伝授してもらったの」と、彼女は語る。一時期、Bristol、Stephens、Psychobitch等のDJ陣、そしてShelton本人がクラブ内の部屋で暮らしていた事もあった。当時の定番曲を訊いてみると、彼女は即答でPailheadの"I Will Refuse"と、Ministryの"Everyday Is Halloween"などのWax Trax!のシングルを挙げた上、「Front 242とNitzer Ebbの曲はどれもかけていたわ」と告白した。そして意外にも、レジェンド・ハウスDJの Ron HardyやFarley "Jackmaster" Funkが良くプレイしていたことで有名な、I.R.Tの"Watch The Closing Doors"という初期のヒップホップ/エレクトロ曲もかけていたという。

当時、ポスト・パンクやポスト・ディスコといったサウンドが流行っており、ジャンルを別ける境界線は曖昧であった。1982年6月19日発行のBillboard誌のCary Darlingによる記事には、Kraftwerkがアメリカ中のR&Bやダンスミュージックのラジオでヘビロテされていること、そして“ニューミュージック”と呼ばれた、より聞きやすいニューウェイブのようなサウンドの楽曲も注目を集めており、クラブやラジオで12インチやEPに対する再評価が起きていたことが書かれていた。

1984年、Medusa'sではライブアクトも招くようになり、ESGやViolent Femmesなどが出演した。9月にはMinistryのライブ、そして次の週にはFront 242が初めてアメリカで行ったライブもあった。Smart BarとMetroのオーナー、Joe ShanahanはSpin誌の記事にて同ライブのことを、「機械の轟音、そしてブーツを履いた千人の人々が規則的にジャンプしてるかのような音で溢れていた」と、言い表していた。

同年11月、Red Hot Chili Peppersがスケートボードのランプで溢れた部屋でライブを行ったが、「誰も彼らのことはまだ知らなかったね」と、Sheltonは言った。1985年には Liquid Liquid、Front 242、Divineなどがライブアクトとして登場した。「Divineが裏口から入って来たとき、ウィグをつけてなくて坊主頭だったんだよ！」と、Sheltonは思い出す。"Our Darkness"がヒットしたAnne Clarkは1986年の6月にパフォーマンスを行った。

Medusa's の三階にはアートギャラリーやパフォーマンス・アートの部屋、大きな映写スクリーン、モニター、ビーンバッグチェアなどが置かれたビデオルームなどがあり、様々な展示が行われた。同じ時期にMedusa’s近辺にオープンしたBerlinというクラブで働いていたVJのJoe Michelli が、Medusa'sの映像担当として雇われた。このクラブの映像機器は最先端のものを用意しており、例えば、脈略の無い映像を突然挿入するような編集技術が可能であった。そして、全てのシングルにミュージックビデオがあったわけではないため、Michelliや他のVJ達は独自の映像をこしらえた。「VHSで一杯の箱がいくつもあったんだ」と、Michelliは言う。「俺は10時から午前3時ぐらいまでずっと居て、映像を組み合わせたり、カットを挿入してクレイジーなものを作っていたよ。テレビや映画から材料をとってくるんだ。Leroy（Fields）なんかがビデオ屋に言って、幾つもビデオを借りて持ってきていた」

Medusas’sを始めた当初から、David Sheltonは様々なパフォーマンス・アーティストにインスタレーションの展示をお願いした。その内の1つのグループ、SSPU（後にSXPUに改名）はDigest Blood Beatというインスタレーションを創作した。Rod Rushingが覚えている限りでは、音や光を発する“疑似マシン”が設置されており、上の階に行くと、赤い液体で一杯のバスタブがあり、縛られたLouanne Ponderが悶える中、"You know you like it like that, don't you, baby!（これが好きなんだろ、ベイビー！）"というフレーズを発するテープがループ再生されていた。

もう１つのパフォーマンスグループ、Family Planは共同生活をし、お店を構えていた集団だ。彼等はカスタムを施した奇抜な服装でシカゴの街を練り歩いた。Pittsleyは彼等のパフォーマンスが不気味で不穏であったと語る。「中二階のところにガラスのケースのような、細長い部屋があって、二つの壁が大きな見晴らし窓になっていた。ある時、片方には正装をした人々がカクテルパーティーを楽しむシーンがあって、もう片方には病院みたいな場所で点滴を打たれている人々が居て、その人達から吸い取られた血液がチューブを通ってもう片方の人々のグラスへと注がれている、という展示をしていた」

数ヶ月に1回、Medusa’sは内装の模様替えを行った。Chicago Tribune紙の1986年10月の号には、店内の内装について語っている記事があり、文中ではネオンやブラックライトの他に「巨大なティンカートイ（ブロックのオモチャ）のレプリカが天井からぶら下げられていた」ことや、ダンスフロアには「終末論を表現したグラフィティが施されたオベリスク形の塔が立っていた」ことなどを説明していた。Rushingによると、初期のテーマパーティーには人間動物園なるものもあった。クラブの至る所に木製の檻が作られ、秘書、ソファでTVを観る人、豚のマスクを被り女性物の下着を来たデブの男、などを展示していた。

しかし、Medusa’sファミリーを取り巻く環境は常に明るいわけではなかった。「85年になる頃には、友人達の多くが病気になったり、他界したりした。エイズ問題のせいだ」と、Rushingは明かした。「あの頃、言葉にできない恐怖と悲しみが漂っていた。俺は1985年、HIV検査で陽性と言われた。その１ヶ月後、親友が死んだ。そしてたしかMark（Stephens）も、その頃に陽性であることが解ったんだ」

Jamie Principleのハウス・クラシック、"Your Love"のエディットとミックスを担当した人物でもあるMedusa'sのDJ、Mark "Hot Rod" Trollanは、1986年12月19日、31歳の若さで他界した。Red Hot Chili Peppersの"True Men Don't Kill Coyotes"が流れる中、Rod Rushing達は彼の遺灰をダンスフロアにまいた。Medusa’sは彼等にとって、現実逃避できる場所でもあった。「日々の苦悩から逃げ出して息抜きできる場所だった」と、Rushingは言う。「夜、大音量で音楽がかかってて、皆が楽しんでいるこの場所にいれば、嫌なことなんて忘れることができた」

ところがMedusa’sは住宅地にあったため、近隣の住民からの反発があった。1985年の11月、市会議員Bernie Hansenの手配で警察のガサ入れがあった。1987年1月、HansenとEugene Schulterは新しく条例を制定した。これにより、ジュースバーであっても料金を払ってバーとして登録しなくてはいけなくなり、バーと同じ営業時間を守らなくていはいけなくなった。この条例の理由に、近所の住民からのクレームが挙げられた。Hansenによると、クラバー達はMedusa’sの外に溜まり、酒を飲み、タバコを吸い、車の中でセックスをしていた。そして、Medusa’sに来る客層も問題視された。Sun Times紙によると、Medusa’sに遊びに来ていた若者達の多くは、「ツンツンに立てた髪を蛍光色に染め、黒いレザーを好んで着ていた」。さらに火に油を注ぐかのように、同じ記事には「3人のティーンエイジャーの常連客が、 3人のうちの1人の父親を殺害する計画をMedusa’sで練っていたと、Hanover Park警察に白状した」と書かれていた。

ジュースバーに関する条例は1987年の1月に制定され、4月1日に発効した。Muzic BoxやPower Plantなど、街中の深夜営業のクラブに影響があった。皮肉なことに、深夜に飲みにくる客がいなくなったため、Medusa’sの営業時間の改変は更に若い客を引き付ける結果となった。これを機会に、Sheltonはイベントプロモーターと手を組み、13〜15歳の子供のためにスペシャルアワーを設けたり、学校新聞に広告を出すといったことを試みた。この頃、当時14歳だったハウス・プロデューサーのHieroglyphic BeingことJamal Mossが、初めてクラブに足を踏み入れた。「たまたまふらっと入っただけなんだ」と、彼は言う。ある晩、Mossは友人たちと街を徘徊していたとき、外に人だかりができているのを目撃し、中に入ってみたのだ。「あれだけ黒人じゃない人達が一ヶ所にいるのを見て、カルチャーショックだった。ゲットー出身の俺からしてみれば、それは衝撃だったんだ」と、Mossは語った。

シカゴは昔から人種の隔離が激しい街だったが、Medusa’sは様々なバックグラウンドのティーンが集まったと、当時を知っている者は皆口を揃えて言う。VJのLeroy Fieldsはこう語る。「異性愛者、同性愛者、パンクな奴ら、ゴシックな奴ら、スキンヘッド、アジア系、黒人、郊外の奴ら、都会の奴らが入り混じっていた。（海軍基地の）Great Lakesから海軍の奴らも来ていたよ。アルコールはなかったから海軍も認可したんだ」

Sheltonは、制服を来た海軍兵がハウス・ヘッズ、ドラァグ・クイーン、ゴシックファッションの若者達と一緒に踊っていたのを覚えているという。「うちは人気のスポットだったから、友達がいっぱい居るような人気モノの高校生も遊びにくるんだ」と、Sheltonは語る。「しかし、ここでは普段除け者にされている子達が主役なんだ。そういった子達が輝ける数少ない場所だったんだ」

「俺や友人たちは、ブラック・ゴシックと呼ばれるようなファッションをしていた」と、Jamal Mossは言う。「アイライナーをして、輪っかのイヤリングをつけて、黒いキルトに黒いコンバットブーツ、黒いスーツジャケットを着ていた。今思えば、当時の俺たちの写真がどこにも無いことが幸いだよ！」

ところが、それだけ様々な若者が集まる場所には喧嘩はつきものだ。「クラブの端っこで殴り合いの喧嘩なんかが勃発するんだ。特にDunkin Donutsの駐車場とかで良くあった」と、Mossは言った。

「Medusa’sでは酷い経験をした」と、デトロイトテクノの重鎮、Derrick MayはFacebookを介して教えてくれた。「一度、クラブに入ろうとした時、ゲストリストをもったドアマンに、“お前等みたいな人種は歓迎してないんだよ。Halsted Street（にあるPower Plant）にでも行けよ。”と言われた。思いっきり野郎の顔面を殴って、奴をノックアウトしたんだが、結局21歳の誕生日を拘置所で過ごすハメになったんだ。それ以来２度とあんなトコには行かなかったよ」

「セキュリティ・スタッフにはスキンヘッドが多かった」と、Sheltonは認める。しかしシカゴのスキンヘッドが皆、白人至上主義者だった訳ではない。むしろ、中には黒人のスキンヘッドもおり、そういった者達は自分たちのことを“ボンバーボーイズ”と呼んでいた。1989年のChicago Reader誌には、そういった彼等のことについて書いた記事があり、Medusa’sの常連の１人、Dwayne Thomasを取り上げていた（不思議なことに、彼はそれ以前にThe Observerでも取り上げられていた）。

セキュリティ・スタッフに対する思い出は、なにもネガティブなものばかりでは無い。「彼等は親切で優しかった」と、Pittsleyは語る。「ハロウィンに俺たちと一緒にドラァグ・クイーンの格好で出歩いてくれたんだ。彼等は俺たちの面倒をみて、守ってくれて、俺たちも彼等の面倒を見ていたよ」

1987年、Medusa’sの客層に変化があった。その理由の１つは、ScrappyことJonathan Gilbertが新しいDJとして参加した事だ。「ティーン向けのプレイや深夜のバック・トゥー・バックをやっていた時期があった」と、彼は思い出す。「ティーンナイトに皆を誘う時、俺は冬でもスクーターに乗って道を走って、デリでサンドウィッチを買って、750mlのウォッカを買って、時間までにもどってDJをしていたよ」。Gilbertがプレイすることで、よりプレッピーな雰囲気の客層が増えた。「ハウスをプレイするようになって、色々と反発もあった」と、彼は言う。「だが気にせずプレイしていたら、そのうち良い反応を受けるようになった。Teri Bristolもハウスをプレイするようになって、上手くいったんだ」

そのうちGilbertはオリジナルのハウス・レコードを作りたいと思うようになり、Jim MarcusとVan Christieからなるパフォーマンス・ノイズ・バンド、Die Warzauをスタジオミュージシャンとして起用した。彼のファーストトラック、"Touch Me"はD.J. International／Westside RecordsのUKコンピレーション、『Jackmaster Acid Trax』に収録された。その後Scrappy名義で"Freeze"、"Love Motion"、そしてAtlantic Recordsリリースの"Don't You Wanna Dance"など、5枚のシングルを出した。

「そのころ、俺はレコードをクラブのロッカーに保管していた」と、Gilbertは言う。「何回か、スキンヘッズの野郎どもがDJブースの至る所にナチスのシンボルをスプレーで描いたということがあった。俺がユダヤ人だと彼等はなぜか知っていたんだ。もちろん、とても不快だったが、Dave（Shelton）は、“なぁに、奴らはただお前をおちょくってるだけさ”としか言わなかった。彼はこういうことにもっと敏感になるべきだと思った」。1989年、GilbertはMedusa’sを離れ、ライバルクラブのLimelight へ移った。

Medusa'sの店内は公式には禁酒であったが、決して禁欲ではなかった。「あの建物の全ての部屋でセックスしたと思うね」と、Jim Marcusは告白する。「男子学生の社交クラブみたいな雰囲気じゃなくて、女性客も存在感があったから、女の子達も居やすかったんだと思う。下着姿で踊ってる人を見たのは、ここが初めてだったよ」

Medusa’sのスタッフの多くは、ファミリーの一員のような気分であったと当時を振り返る。「Medusa’sで、初めて尊敬できる歳上のゲイの人に出会ったんだ」と、Marcusは言う。「俺はバイセクシャルとして育って、友人にゲイもいた。俺たちは、“ゲイやバイとして大人になるというのは、どういうことなんだろう”って思っていた。そんな俺たちにとってDaveやBlueは良き先輩だったんだ。親切で優しい人達で、こういった話がし易い存在だった」

「ゲイの子たちだけじゃなかった」と、Pittsleyは語る。「苦悩を抱えて日々生きてる若い子たちにとって、ここはサポートセンターのような役割を担っていた。俺自身に関して言うと、俺はラッキーなほうだったと思う。プラス思考に教育されたし、素晴らしい家族の支えがあって、誰かに頼りたいと思ったり、自分を否定するようなことは無かった。Daveも同じだ。俺たちは2人とも先生気質だったから、座ってじっくりと彼等の悩みに耳を傾けて、家にいるのがいかに苦痛なのかなどについて、話を聞いてあげた。もちろん、やりすぎると、“じゃあここに泊まってもいい？”って言い出すから、そこはほどほどに。逃げるのではなくて家に帰ってちゃんと問題と対面するように教えたよ」

1989年ごろ、SheltonはDJ Rush、Lil’ Louis、ArmandoなどハウスDJを多く雇い、そのおかげで日曜日の夜のパーティーには多くの黒人が集まるようになった。「Lil’ Louisの家族は皆ここで働いたんだ」と、Sheltonは言う。「彼の父さんが入場者の持ち物をチェックして、母さんや彼の姉が受付をやって。イベントが終わると、売り上げを折半だ。契約書すら交わしてなかった」。Lil’ Louisの"French Kiss"は、Medusa'sで最初に人気に火がついた。

同年、Medusa'sはMTVの『120 Minutes』という番組でクローズアップされた。結果、クラブの来場者は3倍に膨れ上がった。「元々来ていたような人達とは違うタイプの客が多くなった」と、Marcusは語る。「それは別に良いんだが・・・初期の頃から来ていた人達は、俺みたいな、周りに中々理解されないような人達で、親近感が湧いたんだ。変わり者、変態ばかりで、ここ以外に行く場所なんて無かったような人達だ」

どんなパーティーにも、いつかは終わりが訪れる。1992年6月、Sheltonの賃貸借契約が解消された。Medusa’sを立ち退きさせなければ、地主の開発計画をストップすると市会議員が脅したのではないかと彼は考えている。Medusa’sの営業ラストの週末にはWax Trax!レトロ／ハウスミュージック・ナイトなどが行われ、1992年、6月25日にはファイナルイベントとして、従業員や親しい友人のみを招待したプライベートパーティーが開かれた。

数ヶ月後、SheltonはCongress Theaterにて幾つかパーティーを試みたが、この地区は犯罪率が高く、断念した。1997年、彼はエルジンにクラブをオープンした。現在彼のクラブに足を運ぶ人の中には、両親がMedusa’sで知り合ったと話す者も居るという。「彼等の子供達にも認められているなら、俺たちはまだまだクールみたいだ」と、Sheltonは笑った。

Medusa’sがシカゴのアートと音楽シーンに多大な影響をもたらした事に異論の余地は無いが、Medusa’sは社会的な貢献をも果たしている。「ここで人と人が繋がったことで、今のシカゴがあると思うんだ」と、Mossは説明する。North Shore地区のリッチなティーンエイジャー(John Hughesの映画『Sixteen Candles』や『The Breakfast Club』などにて詳しく描かれている)が、南や西側の若者と一緒にパーティーをすることは、Medusa’sのようなクラブがなければありえなかった事だろう。

音楽的にも、多様性に溢れていた。「パンク・クラブでは、DJがディスコをかけた途端、人々がダンスフロアに座り出すんだ」と、Marcusは言う。「Medusa’sではもっと自由度が高かった」。ハウス・ミュージックとインダストリアル・ミュージックの親和性は見落とされがちだ。これを明らかにするため、Jamal MossはMedusa Editシリーズをリリースした。「シカゴのダンスミュージック・カルチャーは、何もブラック／ソウルの美学だけではないんだという事をはっきりとさせたかったんだ」と、Mossは主張する。「こういったサウンドがあったからシカゴのサウンドは進化を遂げて、ハウスを聴いていた人達がインダストリアルを聴くようにもなったんだ」

90年代が進むにつれ、いっときアヴァンギャルドだと謳われていたアートやファッションはどんどんと商業化され、均質化していったが、路上で喧嘩していた若者達、髪を染め家から追い出された若者達が集まったMedusa’sは、行き場の無い者達が安心して自分らしくいられる聖域であったことは間違い無い。「Medusa’sは決して華やかなクラブでは無かった」と、Pittsleyは締めくくる。「すごく素朴で飾り気がなかった。そこが良さだったと思うんだ。変に気取ってないんだ」

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