この記事が元々執筆されたのは3月の初頭、私たち（筆者を含む）の多くが、これまでの人生で誰も経験したことのない規模の破局的な危機が迫っていること、そして私たちの生息する世界をひっくり返すことになるとは、まだ気づいていない頃だ。しかし、この時点ですでに、我々の社会や政治の根底にある問題を認識し、それを提起し、行動を起こしているアーティストや思想家たちもまた多く存在していた。その後数週間、政治や文化が置かれる現状が混迷を極めるのを観察してきた私は、今こそが、この記事を発表する最適なタイミングだと確信する。読者の皆さんにも、この困難な時代にここで紹介される視点からインスピレーションを受け、希望を感じてもらえれば幸いだ。
- 浅沼優子

1月の肌寒い日曜日の午後、私は新宿駅前にいた。新宿駅の西側は高層ビルが密集するビジネス街で、週末になると生活感が感じられない。逆に東側は商業地区で、あらゆる類の消費者が集まる。日曜日には駅前の道路が封鎖され、車両通行止めの歩行者天国となり、全国各地またはそれよりも遠方から押し寄せる訪問者に対応している。東京、特に新宿は物質主義の頂点を象徴するようなところだ。欲しいものはお金さえあれば何でも手に入る。およそ思いつく限りのファンタジーが、ここでは購入できる商品やサービスとして陳列されている。人の視線に触れるすべての表面は、広告や看板で満たされ、より新しく、より優れたモノを購入し所有することを奨励している。

この場所が、プロテスト・レイヴの第2回の開催地だった。昨年のハロウィンの週末に渋谷駅前のハチ公広場で行われた第1回目の試みに手応えを感じた彼らは、今回#OccupyShinjuku0112 をスローガンに現政権に対する合同デモを計画している3つの政治活動グループからの招待を受けて、二度目の開催を決めた。サウンドシステムを搭載したトラックで新宿の通りを行進した後の、終着点がまさにこの場所だった。公衆の面前で、「アフターパーティー」はスタートした。ローカルDJのMars89、Miru Shinoda、Mari Sakuraiを中心に、彼らのDJ仲間JACKSON Kaki、1017 Muney、そしてこの日のスペシャルゲストである大阪からの¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uが出演した。

重低音とキックドラムが、駅出口付近のアルタ前広場にこだまし、人で賑わう歩行者天国に響き渡った。週末にこの広場で大音量の音楽が流れたり、何らかのパフォーマンスや集会が行われることは珍しくないため、通行人の多くはあまり気にすることなく通り過ぎたが、何人かは足を止めてこの聴き慣れない音楽が何なのか探ろうとしていた。それは仮設のDJブースから発せられていて、MCのOnjuicyはまるでそこが地下のクラブにかように、マイクでほど良くミックスされた観客を煽っていた。DJの背後には「We dance together, we fight together」というスローガンが書かれた大きな横断幕が掲げられ、2018年にトビリシで行われたプロテスト・レイヴへの敬意と連帯が示されている。次第に増えていく人だかりも、クラブに集まるような面々と大差なかった。実際、シーンでは馴染みの顔ぶれも、世代を超えて多く見られた。

Sign 1, Sign 2, MC ONJUICY, Mars89, Miru Shinoda, ¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U

そこにはThe M/ALLフェスティバルの共同主催者である奥田愛基の姿もあり、バンドGEZANのメンバー4人もスタジオ・リハーサルに向かう途中に立ち寄っていた。彼らはお互い良く知った仲で、東京で起こり始めている新しい社会・文化運動の立役者たちである。このアーティストとアクティヴィストのネットワークが特に興味深いのは、彼らのバックグラウンドも音楽スタイルも全く異なること、それぞれが各自立ち上げたプロジェクトに取り組んでいること、それが有機的につながっていて、時に重なり合っていることだ。

「僕たちが繋がったのは奥田君がきっかけでした」と、数日後にMiru Shinoda、Mari Sakuraiと共にインタビューに応じてくれたMars89は言う。「DJ 1-Drinkと僕で去年、パレードとかサウンドデモやりたいねという話をしていたところに奥田君がいて、Miru君も同じようなこと言ってたから、って紹介してくれたんです」

Mars89はサウンドシステム・カルチャーやストリート・ダンス・ミュージックを継承した重心低めのサウンドをメインに、10年前から東京でDJとして活動している。数年前にブリストルを拠点とするレーベルBokeh VersionsからEPをリリースし、Noods Radioでのレジデンシーを開始してから国外からも注目を集め、昨年のパリ・ファッション・ウィークでUndercoverのランウェイ・ショーの音楽制作を担当したことで、プロデューサーとしてのキャリアも飛躍した。

一方、Miru Shinodaは、James Blakeの影響が色濃い、現在は活動休止中のインディー・ポップバンド、yahyelのメンバーとして音楽活動を開始。1年ほど前からDJを始め、最近は自身やラッパーなどの楽曲プロデュースも行っている。「バンドのシーンは政治的な発言をみんな控える風潮があって。シティポップ・リバイバル、ゆるやかなユートピア、社会的なリアリティから逃避する感覚がすごいあった。みんな何も言わねえな、っていうぼんやりとした違和感があった」

そこに、まだまだ男性優位が根強いクラブ・シーンにおいて、ジェンダー問題にも積極的に発言してきた、テクノ界でも勢いのあるDJ、Mari Sakuraiが招き入れられた。「ジェンダー問題を打ち出さずにふわっと盛り込みたい。それが自然になるように、問題意識を行動に移したいと思った」という彼女は、VentでのI/OやWWWでのKrueなどのパーティーを、同じく都内で活躍中の女性DJ Mayurashkaと共にオーガナイズしている。

Mari Sakurai

「みんな3.11以降、それぞれがデモに参加していました」とMars89は説明し、Mariは「当時は知り合いではなかったけど、同じ場所にいた。奥田君とも直接知り合いではなかったけど、同じ大学の同級生なので知っていました」と補足する。彼らは、2011年に東日本大震災及び原発事故という未曾有の大惨事が日本を襲った時、高校3年生くらいだったという世代だ。

3.11以降の、日本における社会運動や政治アクティヴィズムに少しでも関心を持っていた人にとって、奥田愛基は避けて通ることはできない名前だ。彼はSEALDs（自由民主主義のための学生緊急行動＝Students' Emergency Action for Liberal Democracyの略）の共同創設者であり、その中心人物でもあった。SEALDsは2015年から2016年にかけて、大規模な反政府デモ（主に安倍政権が日本の防衛軍の海外派遣を可能にする可能性のある憲法改正に反対するもの）を組織。その中でも最も象徴的だった2015年8月30日のデモには、推定12万人の群衆が国会議事堂前に結集し、政府の安保法案に抗議した。

「アクティヴィストになるつもりはなかったんですけど」と、東京のクラブで見かけるカジュアルなレイヴァーのような風貌の奥田は、渋谷のカフェで話を聞かせてくれた。彼はその頃を振り返ってこう続ける。「そこまで政治に関心を持っていたわけではなかった。でも大災害を受けて日本は変わらなければいけないとみんなが思った。反原発デモに10〜20万人集まっているのを大学の友達と”見に”行って、福島も行ってみて。その直後に選挙があって、脱原発の方に、新しい方向に変わると思ったのに、自民党の圧勝を見てショックを受けた。みんなが考えていたこととは真逆の、もっと保守的な方向に社会が動いていた。このままでは日本はダメになると思いました。ダメなことにはダメと言う人がいないと。誰かが言ってくれるのを待っていたけど誰もいなかった。じゃあ俺がやるかって（笑）」

学生時代はヒップホップが好きだったという彼だが、全国規模の学生運動グループのリーダーとして活動していたこともあり、音楽シーンには当時直接関わっていなかったという。「音楽関係の人たちとは、デモで知り合いました。Mars君ともクラブで会う前にデモで会っている。ラッパーのECD（R.I.P.）さんやDJ Nobuさん、バンドDYGL、（コーネリアスなどのジャケット・デザインで知られる）グラフィックデザイナーの北山雅和さんとか、その他にも色々な人と知り合いました。不思議でしたね。でも、誰かに“音楽の人は（反応や行動が）早いんだよ”と言われました。音楽で夜通し踊っている人たちと、例えば大学の学者とではリズム感が違う。そして、デモのデザインや効果的なコミュニケーションの仕方も、彼らの方がはるかに優れています」

2015年8月のデモの直前に、奥田のTwitterにDMが届いた。「“坂本と申します。何か私にできることはありませんか”と書かれていて、どこの坂本さんかと思ったら教授だった（笑）。面識はなかったですが、“今度のデモには10万人集めたいです。国会前まで来てもらえますか”と返事をしました。そしたら“分かりました”って。当日車で現れて、10万人の前で初めて挨拶をして。いきなりスピーチをしてくれた」

坂本は紛れもない反原発派で、2012年からNo Nukesフェスティバルの主催もしている。このドラマチックな出会いを経て、2015年版のフェスティバルではSEALDsがゲストスピーカーとして招かれた。この関係を利用すれば、奥田が新たな音楽フェスを立ち上げることはもっと簡単だっただろう。「でも、自分たちで何ができるかを、まずは示したかった」という彼は、2018年に渋谷で入場無料の2日間の音楽フェスティバル「The M/ALL」をスタートさせた。名前はMAKE ALLの略で、そのDIYスピリットが表れている。初年度はクラウドファンディングで資金を集め、翌年2019年にはオリジナルのオンラインTシャツ・ショップの収益で運営した。

「貧富の格差は拡大する一方。だから余裕のある人にはTシャツを購入することでアーティストやスタッフの人件費を支援してもらい、音楽体験そのものは無料で提供したかった。音楽はお金持ちに寄り添うものではなく、お金のない人に寄り添っていて欲しい。切実なものであってほしいから」

The M/ALL Festival

2019年版The M/ALLで、奥田はDJにMars89、Miru Shinoda、Mari Sakurai、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uを招き、ヘッドライナーにはインディ・ロックバンドGEZANを迎えた。ここ数年、着実に評判を高め、従来の音楽業界の常識をとことん覆すような活動の仕方で新たな”波”を起こしている4人編成のバンドだ。音楽的にはサイケデリックなギター・ロック、パンク、ダブの間に位置するようなスタイルで、MahiToThePeopleというアーティスト名で活動するフロントマンのマヒトの、ちょっと意外な、ハイトーンでスポークン・ワード・スタイルのボーカルと組み合わされている。自主レーベル十三月を活動のプラットフォームとし、完全なインディペンデントを貫いている。

2009年頃にこのバンドが結成された大阪という街は、実験的でフリーフォーム、そしてしばしば過激な音楽文化が根付いており、Boredomsのようなバンドを生み出している。

「大阪特有の、“はみ出すことをダメなものとして扱わない”という、むしろどんんだけはみ出すか、みたいな、今思うと正しかったのかはよく分からない価値観にはすごく影響受けている。当時、BearsやBridgeのようなハコではよくフリー・インプロのイベントがあって、それがすごく面白かった。でも、しばらくして大阪で煮詰まった」とマヒトは言う。「GOATをやっている日野くん（YPY）のbonanzasなんかはよく対バンしたけど、周りに特別おもしろい動きはなく、そうこうしてるうちに何もやれてないのに中堅扱いされはじめた。日野君は海外にオーディエンスを見つけ始めたけど、GEZANはもっと土着的。僕らは、いわゆるBoredoms直系のあふりらんぽとか、オシリペンペンズとか、ズイノシンといったバンドがいて、そのシーンが少し落ち着いたところ出てきた。今考えると、自分もやっていることに意味を持たせて、音を道具や武器みたいに利用して何かを主張していくことをむしろ拒絶するような音楽のやり方をしていた」

だが、マヒトやGEZANにとっても3.11を境に全てが変わった。「震災があって、大阪のカルチャーがあの時本当に置いていかれたと思った。画面の向こうでは福島や東京のアーティストがそれに対するリアクションを起こしていた。ヒップホップ、特にECDとかが凄い速度でアウトプットをし出していた一方で、大阪はフィクションの世界でしか捉えられないようなムードがあった。その時に一気に置いていかれた感じがした。”現実”が遠く感じられ、熱量に違いがあった。でも何か大変なことが起きているという皮膚感覚だけはあって、だから福島に行ってみたりもした。その次の年くらいに（大阪を）出たんじゃないかな」

一般的に、東京は日本の音楽産業の中心であったため、地方のミュージシャンの多くは、成功を求めて東京に移ることが常だった。しかし、GEZANの場合は少し違う。「資本主義的な仕組みの中で音楽をやることで勝ち上がっていく、みたいなやり方に魅力を感じなくなった。20年、30年後をイメージしたときに、AIにはない人間の強みは“揺れ”、あるいは“余白”の部分、間違えることも含めて、“生産性”という言葉からは一番遠いところにあるあいまいさだと思う。そういうところに価値を生み出すことがオルタナティヴだと思っている」

2014年、GEZANは東京の郊外で一日限りの野外フェス「全感覚祭」をスタートさせた。彼らの、入場無料、参加費無料、カンパ制の音楽フェスの初の試みだった。それは年々規模を拡大し、2017年にはかつての拠点であった大阪で開催。翌年の大阪開催は大成功を収めた。完全入場無料を維持しながらも、2018年は2日間のイベントの間に参加者から約500万円のカンパが集まった。驚くべきことに、彼らは常に出演者全員に出演料を払うのに十分なカンパを集めており、初回から一度も赤字になったことはないという。

昨年は東京と大阪の両方で開催することを発表し、さらに両イベント中にフリー・フードを提供すると宣言した。マヒトは後にネット上のコラムで、宣言をしてしまってから、実現する方法を模索し始めたと綴っている。当然ながら、各会場に集まる2,000～3,000人分の食事を計約10,000食用意するのは容易なことではない。彼ら自身を含め、誰もその方法を知らなかったが、それを彼らは実現してみせた。最終的には膨大なリストとなった、全国各地から協力を申し出た農家、食品メーカーやカフェ、レストランなどが、彼らのビジョンに賛同して、食材や商品、スキルを提供したのだった。

しかし、「全感覚祭 2019 - New Age Step -」はそれだけでは終わらなかった。9月下旬の大阪版の終了後、参加者の一部から食中毒が報告された。それは会場で提供されたフードではなく、近隣の外部業者の提供したものが原因であったことが後に判明したが、それでもチームは大きなショックを受けた。その上、10月初旬（Labyrinthと同じ週末）には過去最大級の台風が発生したため、東京版の中止という非常に困難な決断を下さなければならなかった。開催前日に野外イベントの中止を発表。そして翌日には、そのさらに翌日の夜に“渋谷全感覚祭 - Human Rebellion - ”を開催すると発表した。野外開催を断念してから、わずか数日後には、WWW、TSUTAYA O-EAST、Quattroなど渋谷の主要音楽会場の協力を得て、東京でも最大の商業地区でのフリー・フード、入場無料フェスティバルの実現に漕ぎ着けたのだ。

「渋谷全感覚祭が出来てなかったら無理っすよ、僕ここにいれてないです（笑）」と今でこそマヒト笑いながら振り返るが、フェスティバルの後の3週間は深刻に体調を崩して寝込んだことも聞いていた。その時のプレッシャーは凄まじいものだったことだろう。「全感覚祭のコンセプトは、普段の自分のプロフィール（職業等）とは関係ないエネルギーを集められる日を作ること。それを押し出していたわけではないけれど、渋谷全感覚祭では、例えば吉祥寺とか下北のライブハウスの店長が営業後に来てくれて、全然関係ない会場の警備をやってくれた。自然とそれが伝わっていました」

GEZAN at 全感覚祭

彼らの活動は私たちに大切なことを思い出させ、これまでとは違ったやり方が可能であることを証明している。「当たり前に人の生きる話として、生活という軸の延長としてやれるかというテーマが自分の中にはある。特定の主義においてノイズと捉えられてしまうようなものまで大きな間口で許容して、それをかっこいいなとかきれいだなと、それぞれの意思決定によって選択し、向かうべき世界に自然と運ばれていくことが理想。差別主義者や他者を傷つける目的を持った人は論外ですが、人は失敗しても変わりえるという可能性を消したくない。前提として、自分も不完全で単純に間違える生き物だという自覚があるから、それを発見し修正し、生きてきたことを忘れたくない」

マヒトと話せば話すほど、GEZANと彼の活動は芸術的なビジョンに基づいていることが明らかになり、非常にパーソナルであると同時に強いカリスマ性を持ち、リスナーを立ち止まらせ、考えさせることが分かる。彼らの音楽は、彼らの世代と全く同じ目線の高さから語りかけてくる。

これはこれからこの時代が始めなければいけない革命に対する注意事項

失われた抵抗と安売りのシールの貼られた反乱

簡潔に言えば、この不協和音は毒として血をめぐり骨を溶かし、借り物の倫理を破壊す
る

シティポップが象徴してたポカポカした幻想にいまだに酔っていたい君にはオススメでき
ない

今ならまだ間に合う

停止ボタンを押し、この声を拒絶せよ

“狂” by GEZAN

バンド５枚目のアルバムとなる『狂（KLUE）』は、このように幕を開ける。1月末にリリースされたこの作品は、日本が今必要としているレベル・ミュージックとして、大きな支持と称賛を得た。ディストピア的な進展を見せる世界情勢において、より多くのオーディエンスが感じている社会的な不安と明確に共鳴しており、現在のパンデミック危機の最中で聴き直してみると、予言的とも言える内容だ。

想像してよ東京
新しい暴力を何でもって乗り越えよう？

焦燥混乱と優劣を
浴びて暮らすこの日々よ

答えを聞かせて？東京

“東京” by GEZAN

“想像”という言葉は、マヒトの歌詞や会話の中によく出てくる。「今は広告写真も大衆向け音楽も、表面を綺麗に修正したものばかりで、それに僕たちの美意識も慣れきっている。効率よく“買わせる”ためには、その背景のことはあまり知らない方がいい。どんな風に生産されて、消費されるに至っているかを知ることって、重いんですよ。重くて簡単に消費できなくなってしまう。だから想像させないように、いかに簡単に買わせるか、という仕組みをみんなが考えている。でも、見えないものも、ちゃんと存在していることを受け入れる。ないものにしない。想像できる能力こそが、人間の最大の長所。AIには絶対真似できないきれいな部分。可能性はそこにある。全感覚祭にせよGEZANにせよ、活動の軸はそれをいろんな角度から見つけていくことなんです」

パンデミックが日本にも深刻な影響を及ぼし始めてから、彼らの活動の基盤である音楽会場や街頭、屋外での集会などの“場”はことごとく奪われてしまった。だが、当然ながら彼らは諦めていないし、活動の手は緩めていない。Mars89とMiru Shinodaは（DJ Nobuらと共に）は、「#SaveOurSpace」と呼ばれる運動を開始し、4日間で30万人以上の署名を集め、日本政府が感染拡大防止のために文化施設の営業休止を要請したことを受けて、文化施設への経済的支援を要求した。また、彼らはすぐにプロテスト・レイヴをオンライン上に移した。

マヒトとGEZANは、この危機の影響を計るために、音楽シーンの様々な人物へのインタビューをまとめたビデオドキュメンタリー・シリーズとして『WASH』、その続編『WiSH』をすでに配信し、前出の大阪のライブハウス難波BEARS救済コンピレーションを制作中で、さらに全感覚祭2020は「全感覚菜」と題し、5月30日から恵比寿リキッドルームの屋上を十三月農園として、食料となる野菜や花を育て、それらをフリーで共有しながら都市の風景を変えていくプロジェクトを立ち上げ、それを記念する30時間の音楽配信を行った。

マヒトの詩的な声明文には、「与えられた仕組みや悪政に思考停止のまま運ばれ、絶望をインストールするだけでなく、半径1メートルから自分の生きる景色を変えていく。その新しい時代のデザインとは、人間のエゴを可視化した今の都市のような物ではなく、もっと懐かしく美しい色をしてるはずなんだ」と綴られ、彼はこれを小さな革命と呼ぶ。その一方で、シティポップの帝王、山下達郎がラジオ番組で「いま、いちばん必要なのは政治的なものを乗り越えて、団結ではないかと思います。（中略）責任の追及、糾弾は、このウイルスが終息してからいくらでもすればいいと思います」とファンに呼びかけたことは、実に対照的であった。

音楽は常にファンタジーとリアリティの両方の領域に仕えてきた。だが、今この時代に力強く共鳴し、ポスト・パンデミック世界の希望を託したいのは後者であることは、明らかだろう。

綺麗な詩をよんでファンタジーに逃げこむのはもうやめた現実は今ここだよ

戦いの日々よ傷だらけのあなたよ

もう少し戦いはつづくだろう
“I” by GEZAN